はじめに
日本スキー教程安全編(2010年12月1日スキージャーナル刊,以下「安全編2010」)では,スキーパトロールが日常業務で利用するロープワーク(結びの種類や用途)について記載しました。しかし,欧米のスキーパトロール養成システムでは,崖や谷底へ転落した負傷者や,リフトやゴンドラからの乗客(要救助者)救出を想定したロープアクセス(ロープを利用した救助活動)が必須科目として取り入れられていることから,日本スキー教程安全編(2016年11月1日スキージャーナル刊・2018年11月1日山と渓谷社刊,以下「安全編2016」)では,従来のロープワークに加え,ロープアクセスやロープレスキューについて概説を試みました。ところが、救助現場でのロープアクセス・ロープレスキューの実践には専門的な知識や技術に加え十分なトレーニングが必要であることから、誌面の制約もあり安全編2016では十分な説明ができませんでした。そこで,日本スキー教程安全編(2024年11月1日芸文社刊,以下「安全編2024」)では、コース外の急斜面に転落した要救助者(救助者は徒歩でアクセス可能)を、ロープアクセス・ロープレスキュー技術(6倍力ホーリングシステム)を用いて引き上げる実践的な知識と技術について解説しました。
1.安全編2010で取り扱った結びの種類
- 止め結び(オーバーハンドノット)→ダブルオーバーハンドノット(3-8)
- 8の字結び(フィギュアエイトノット)
- 本結び(スクェアノット)
- 外科結び(サージャントノット)
- ふたえつなぎ(ダブルシートベンド)
- ひと一結び(ハーフヒッチ)
- 巻き結び(グローブヒッチ)→クローブヒッチ(3-7)
- もやい結び(ボウラインノット)
- 腰掛け結び
- ちょう結び(バタフライノット)→バタフライノット(3-4)
- 二重8の字結び(ダブルフィギュアエイトノット)→ダブルフィギュアエイトノット(3-1)
- もやい結び(ボウラインノット)→変形ボウラインノット(3-9)
- 二重もやい(ダブルボウラインノット)
- コイル巻き(胴もやい)→コイル巻き胴もやい(3-10)
※イタリックは安全編2024での取り扱い名と番号
2.「もやい結び」系について
「もやい結び」は結びの王様とも称されるほど,結びやすく解きやすく強度に優れた結びです。しかし,リング縦方向に荷重がかかった場合は強いのですが(写真2a),リング横方向に荷重がかかった場合(リング荷重,写真2b),結びが解ける欠点があり,人命救助等には用いられなくなりました。パトロールが人命救助以外の日常業務等で使用するにはなんの問題もありませんが,日頃慣れ親しんだもやい結びを緊急時(人命救助等)に使用してしまうことを恐れて,あえて安全編2016では全面削除しました。安全編2024では,リング荷重にも耐えられる変形ボーラインノット(写真2c)として,コイル巻き(胴もやい)については,ボート流止めとして現場で使用している例が多いので取り扱いました。
写真2c
3.パトロールが日常業務で多用する結び
(1)ロープの連結
太さが同じロープの連結には,ダブルフィギュアエイトノットが用いられますが,太さが異なるロープの連結には,シートベンド系が良く用いられます。連結してもコブが小さいので,引き回しても引っかかりにくいのが特徴で,境界ロープの連結に良く用いられています。
- ロープの連結:ひとえつなぎ(シートベンド)(写真3a)
- 径が異なるロープの連結:ふたえつなぎ(ダブルシートベンド)(写真3b)
- 極端に径が異なるロープの連結:クロスシートベンド(写真3c)
3a |
3b |
3c |
写真3
(2)縦ポールへの巻き結び(クローブヒッチ)
スキー場では,コースセパレートや境界ロープとして,縦ポールへの巻き結び(クローブヒッチ)が多用されます。安全編ではカラビナへのクローブヒッチとして扱っていますが,縦ポールへのクローブヒッチは,ロープの張りを保ちながら結ぶ必要があるため,結び方にコツが必要です。(写真4)
写真4
(3)コイル巻き胴もやい
ボート流止めには,胴ベルト型安全帯(一本吊り5a,リール式5b)や,クライミング用軽量ハーネス5cや,フルボディハーネス5dを使用するのが理想です。しかし,そのような流止めが用意できない場合,ソウスリングたすき掛け5eやコイル巻き胴もやい5fを応急的に用います。ボートが流れて負荷がかかった場合でも,胴に結んだ輪の大きさが変化せず,胴にコイルしたロープの食い込みが小さいのが特徴です。
5a 5b 5c |
5d |
5e 5f |
写真5